外は静かな冬の夜。
吐く息も白い程の寒さ。
月は明日で満月となる、という程度。
明日は、海賊の日。
男たちの戦闘が行われる、特別な日。
今日はその前夜。


場所は、理久と陸のいる部屋。
「リクー?どうしたの?ボーッとして。」
見ていた空から視線を、声をかけた青年に向ける。
少しだけ、おどけた様子を見せて。
「べつに。何でもねーぜ?」
軽く首を傾げる。
その様子に少しだけ先ほどの青年【夏目理久】が戸惑った。
「いや、リクが空見るのって久しぶりじゃないかなって。」
窓は二段ベットの近くにあって、あまり見る機会がない場所だった。
僅かながらに、リクと呼ばれた青年【中条陸】が苦笑いをする。
「ンだよ。見てもいーだろ?月が綺麗なんだしよ。」
「満月じゃないよ?」
「満月じゃなくても、綺麗だっつーの。」
欠けているから、綺麗でもあるのだけれど。
そんな不思議なトコに惹かれた。
しかし、本当に見てた理由は違う。
「ん・・ならいいんだけど。」
少しだけ口ごもる。

本当は、違うんだ。夏目

「それに・・何か・・、リクが・・」
ボソボソと理久が呟いた。
「ンだよ。」
軽く悪戯っぽく笑う。
理久は顔を赤くして、言う。
「最近、オレのこと見ないで、他のものばっか見てるから・・」
「何?嫉妬とか?」
クスクスと陸が笑う。
陸はこういう、理久の素直で真っ直ぐな感情が好きだった。
全て、言ってくれるから。
「そうかも・・しれないけど・・」
もっと真っ赤になってしまった。
(ホント、こーゆー夏目ってカワイイーんだよな。)
ついつい思ってしまう。

少しの間のあとに、理久は何かを決心したらしく軽く頷く。
そして、
「ただ、オレを見てほしいんだ。オレだけど。」
顔を上げて、真っ赤な顔しながらに言う。
真剣な眼差しを向けて。
その眼差しをしっかりと、受け止めて陸は軽く微笑む。
そして、その後に理久に優しく抱きつく。
「お前のこと見てるよ。」
理久はその言葉を聞いたあとに、陸の体を抱きしめる。
幸せを感じながら。
「ただ、」
と、陸が口を開く。
何?と理久は体勢を変えずに聞く。
「お前に似てるモンでも見てるー・・かな?」
「・・へ?」
さっきまでの甘い雰囲気を壊すような間抜けな声を出してしまった。
其の声に、陸は軽く笑う。
「夏目、何つー声出してんだよ。」
「だって、リクが変なこと言うから・・ッ」
まだ、陸は笑ってる。
「悪かったって。でも、事実だぜ?月もお前に似てっから見てたんだよ。」
「・・ドコが似てるの?」
「色んなヤツに、同じように照らしてくれるトコ?太陽だったら、どっちかっつーとレキだし。」
知らなかった。そんなこと。と、理久は思った。
「他にも、目とか鼻とか口とか、笑ってるトコとか似てるヤツ見ちまうみてーなんだよね。」
理久の瞼や、鼻や、口に陸は軽く口付けする。
愛おしく、そして優しく。
「オレ、夏目のことすげー好き。だから、こんなことになったんじゃねーかって思うんだけど。ど?」
「いや、そう聞かれても・・」
唯、嬉しい。
陸がこんなにも自分のことを好きでいてくれた、だなんて。
予想もしていなかったから。
「・・嬉しいよ。リクが、そんなこと思ってたの。」
「ほーんとか?」
「ほんと。」
お互いに顔を見て、微笑んで、口付けする。


幸せな時間。
きっと、
それは直ぐに終わってしまうかもしれない。
だけど、
今を幸せに生きて、
好きな人と一緒に居れて、
一緒に笑って、
ただ、それだけで―・・・