「リク・・。ちょっと質問があるんだけど・・」
「ん?何だよ、夏目」

ふと何かを思い出したように夏目理久が言った。
それに答えているのは”リク”こと中条陸。
中条の名前は本来”アツシ”と読む。しかし、夏目と中条だけ・・つまり二人きりの時は”リク”と呼ぶ。
もう、癖になっていた。

「んー・・何て言うか・・・」
「んだよ。人を呼んどいてその言いぐさは無ぇーだろ。」

はぁ、とため息をつく中条。

「つか、とっとと言えよ。俺、早く風呂に行きてぇーんだしさ。」

そう、今彼等は風呂場へと向かっている最中だったのだ。
ココ、菜の花東高校は壁がペラペラと言うほど薄く日光などモロに当たる。
そのため夏は蒸し暑く風呂は欠かせないものだった。

「あのさ・・。昨日、メールがあっただろ?菱田先輩からの・・」
「ヒシダー・・? あー・・そーいやあったな。で、それが?」
「その質問の答え・・何かなーって・・」

”その質問”とは突然送られてきたメールの内容「中条陸は一体いつから理久のことが好きだったんですか?」というもの。
中条は夏目が夢の中に居る間に答えた。

「そんなの、最初からに決まってんだろ」と。

やはり、夏目には聞こえてなかったらしい。
そして、気になっているようだ。

「別にいーだろ?そんなもん。」
「よっ、よくないよ!俺かなり気になってるしさ!!」
「誰が教えるか。」
「じゃ、じゃあさ!!」
「んだよ・・・」
「俺も何かリクの質問に答える。で、答えたら」
「俺が言ったことを教えろって・・か?」

夏目が言う言葉を先に中条が言った。

「うん。ソレ・・駄目かな?リク」
「悪くは無ぇーけど・・。何でもいいワケ?その質問の内容」
「えっ?あ・・あぁ、別にいいよ?」
「・・・いいぜ?」
「ほっ、本当!?リク!」
「あぁ」

何かをたくらんでいるような笑みを夏目に向けた。
その笑みに夏目はドキっとする。
妖精の瞳も笑みと同様に何かを企んでいるような感じだった。

「んじゃ、言うぜ?」
「いいよ、リク」

二人はその場に立ち止まる。

「夏目理久は一体いつから陸のことが好きだったんですか?・・だ。」
「えっ!?ちょっ、ちょっと待った!それってリクに向けられたのと同じじゃないか!」

夏目は頬を赤に染める。

「ほらほら、答えろよ。」
「正直に言わなきゃ・・だよな・・?」
「当たり前だろ?ンなモン。」

困った表情をしながら夏目は考えていた。
それを見た中条は不安になっていた。
”考えるほど・・俺にキョーミを示さなかったのかよ・・夏目――――・・・”
すると夏目は真っ赤になりながら口を開いた。

「ん・・と、多分・・最初からだと思う。出会った時からかな・・?」
「―――っ!!」

思いもしない言葉だった。
しかし、疑問点が一つあった。

「夏目ー・・。多分ってどーいう事だよ。」
「それは、俺・・いつの間にかリクの事が好きになっちゃって・・具体的な時期が解んないだ・・;」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!//////」

周りに誰も居なかったのは幸いだった。
よくもまぁ、こんなポエムみたいな言葉が言えるな。と中条は思った。

「勝手に言ってろ・・っ!」

彼は恥ずかしそうにスタスタと歩いていく。
きっと顔が赤くなっているだろう。

「ちょっと!リク!?リクの答え聞いてないんだけどっ!!」

歩いていく中条を夏目は追いかけた。

「リク・・?人の約束は守るものだよ?」

それを聞いた中条は突然立ち止まる。
さっきまで(予想だが)赤かった顔が、いつのまにか普段の白い肌へと変わっていた。
俯き加減の中条が夏目を見上げた。




「俺も、最初からだよ。理久―――・・・」




微かに中条は笑っていたような気がした。
何かを企んでいるとかではなく、ただの”笑顔”に近い笑みだった。
そして、普段中条は夏目のことを「夏目」と呼び、「理久」とは呼ばない。
呼ぶときは”特別な時”だけだった。

「え・・っ、あ・・////」

夏目もこの二つの攻撃を同時にされたら一発でダウンしてしまう。
すると、中条はいつもの仏頂面に近い表情をする。




「ホラ、早く行くぜ?夏目。」




そう、それは一瞬でもあり永遠の幻想だった―――・・・。