鳴海さん。

どうして貴方は、

私の名を呼んではくれないのですか?



場所は新聞部部室。
休み時間になると、ここはひよのと歩の溜り場となる。
今も例外なくそうなっていた。
「おい、アンタ。」
「『アンタ』じゃないですッ!結崎ひよのですッ!いい加減覚えたらどうです!?」
「悪い。面倒だ。」
「先輩の名前ぐらい覚えてくださいよー!」
「先輩だとは思ってない。」
いつも酷い人、とひよのは思う。
例え、自分が騙して仲良くなったとしても一回ぐらいは名前を呼んでもいいのに。
呼ばれたかったのに。
「もういいですッ。どうせ鳴海さんはそうやって色んな人に嫌われてるんですもんね! 今更嫌われたって関係ないんですよね!!」
私は嫌いたくない。
むしろ、好きになりたい。
そのことを考えると、
胸が痛くなった。
痛みに、ひよのは顔をしかめた。
「おい、どうした?」
歩はその様子に偶然目がいった。
「何でもないです。」
「本当か?」
「本当です。一々確認しないでください!」
少し、イラついた。
(相手が、私のことを好きだったら・・。この言葉は嬉しいのに。)
こういう、相手をその気にさせるのは清隆にそっくりだ。
何度か会った時に、同じようなことを言われたりした。
(やっぱり、神様なんですね。鳴海さんも・・)
思いたくはなかったのに。
神様じゃなければ、裏切る必要もないのに。
裏切りたくはないのに。

―キーンコーンカーンコーン
休み時間が終わる。
一旦ここでお別れだ。
いつまでも、一緒にいたいのに。運命を忘れて。
「それじゃあ、私はこれで。授業に遅れないようにしてくださいね?」
そう言って、その場をあとにする。
振り返らないように。
振り返ったら、離れたくなくなるから。





ひよのが視界から消えたのを確認し、と歩が呟く。
「仮の名前でなんて、呼びたくはないからな。好きな人相手だったら。」