最期の幸福を




もう、目が見えない。
聴力はまだ大丈夫だった。
だから、声さえ聞けば一応は誰かを識別が出来た。
だけど、
オレは自分の体を動かすことは出来ない。
何も出来なかった。






何も見えないから、
今の季節さえも解らなかった。
病院内の所為、でもあると言えばある。

(もう、永くはないな。俺も。)
大体の部位はもう、言うことを聞かなくなっていた。
唯一、目や鼻がある頭の部分ぐらいが残っていた。
しかし、それだけでは何も出来ない。
「鳴海さーんッ!まーた何か考えてるんですかッ!?」
今日の見舞い客。傍迷惑なおさげ娘。
いや、娘・・という表現があってるのかも解らない。
それに、もう「おさげ娘」ではない。
結崎ひよの、ではないのだから。

「あぁ、少しな。」
「まーったくー。折角私が来てあげてるんですよ?少しぐらいは『あぁッ、来てくれて有難う!』みたいなコト、言ったっていいじゃないですかー!」
「来てくれてもあまり得が無いな。感謝は出来ない。」
数年前と同じような会話が始まる。
ずっと、こんな幸せな日々が続けばいいのにと心から願う。
その願いは、絶対に叶えられないと解っていても。

「・・・おい、アンタ。」
「何です?鳴海さん。」
「そろそろ拙いコトになった。最期にオレのお願いを聞いてくれないか?」 最初、相手は「・・はい?」という素っ頓狂な声を出した。
しかし、数秒経った後に理解が出来たらしい。
「・・早い・・ですね。」
「あぁ、まさかこんな時に来るとは思わなかったな」
それとなく、苦笑いの笑みを作る。
自分でもはっきりと解ったのだ。

もう、あと数分で死ぬことが。

何故?と言われれば、答えに詰まるが自分には解った。
違和感のような、チグハグした雰囲気が自分には感じられた。
「・・で、鳴海さんは何を私にお願いするんですか?」
「なんて事はない。最期まで、手を繋いでいてくれないか?嫌ならいいんだが。」
「・・・嫌なんて言いませんよ」
表情は解らないが、微笑んでいるような優しい声色だった。
「あぁ、有り難い。」
彼女は、オレの片手を自分の手のひらに乗せ、ぎゅっと手を握り締めた。
何となく感覚があったが、随分と薄れてきた。
敢えて言うなら、足などが痺れた時に触れているような感覚が無いような、アレだ。

「最期に見届けられるのがアンタだとは思わなかったな。」
「何ですか、その・・明らかに嫌っぽい言い方は。」
「いや、嫌じゃないさ。」
だって、好きな人だったんだから。
今、こういう状況なのは非常に喜ばしいことだった。
しかし、その状況が幸せ・・と言うのも違う気がする。
オレは、好きな人にこんなことしか出来ない。
想いを告げても迷惑なだけだろう。
相手はもう直ぐ死ぬのだから。


「・・・眠くなってきたな。」
瞼が次第に落ちてくる。
(本当に最期か・・。)
メチャクチャな人生だったけれど、意義があったのかもしれない。
そう思えば、何となく未練はない。
「・・・お別れ・・ですね。」
「・・そうだな。他の人生でアンタと会えたら良かったのにな。」
「ですね。不運と言うか、逢えた事が幸運なのか解りません。」
「神様が居たら、生まれ変わったらアンタと会えるように願いたいよ。」
「あら、神様は鳴海さんじゃありませんでした?」
「神様が死ぬのか?」
最期とは思えない会話が続く。



「・・悪い。もう、眠気が酷い。一旦オレは寝るよ。」
「・・・・・おやすみなさい、鳴海さん。」
「・・・・そうだ、明日は来るのか?」
来る筈なんてない。
明日はオレはココに居ないのだから。
「・・えぇ、仕事が急に入らない限り行きますよ。」
オレの気持ちを解ってか、話を合わせてくれた。
「ふむ・・。なら、朝早く来てくれ。どうせなら、起こして欲しいんだが。」
「・・もう、仕方ないですねぇ。解りました、明日は起こします。」
相手の声は震えていた。
きっと、泣くのを堪えているのだろう。
手に力が入らないが、出来る限りぎゅっと手を握る。
相手もそれに答えて、ぎゅっと握った。

「あぁ、有難う。 それじゃぁ、おやすみ。ひよの。」





すぅっと眠りに落ちる。
それは、永い眠り。
明日、起きることの無い眠り。
最期は、自分にとっては勿体無いぐらいに幸福だった。





彼女の暖かな感触を最期に、
オレは思うことや感じることを失った。








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死ネタキター。
柚慧は死ネタ大好きです。ハッピーエンド的な死ネタ(どんな)が大好きです。
萌えだよね、死ネタ(言いすぎ
んでもって、久々にノーマルカプと・・。
最期は清隆でもいいんだけど、絶対にエロくなる。
ほのぼので、一番いいのなら相手はひよのさんかなーとw
そんな感じでものの数分で書き上げた小説ですた(爆