運命に逆らう術



「ラザフォード、いつまで見てるんだ?仕事とか、色々あるんだろ?」
「・・暫く休みを貰った。今、仕事に戻る気はさらさら無い。」
「・・・・確かに、辛いだろうな。」

そう言って、清隆は部屋をあとにする。
ここは鳴海家で、歩が使っている部屋。
本来ならアイズはこんなところには来はしない。
今回は理由があって、やむ終えず来たのだと彼は言う。
きっと、最後になるであろう人との再会をしに。

この部屋に残されたのは、アイズと布団に寝ている歩だけになった。
寝ている、と言っても体を休めるためのものではなく、完全なる身体の停止のことだった。
大抵の人は、ここで泣き、理性を半ば失うだろう。
しかし、アイズは泣かなかった。否、泣けなかった。
幼馴染のカノンは亡くなった時も、泣けなかった。
悲しいのに、悲しいのに、何故か涙が出ないのだ。
まるで、「泣く」という動作を全て忘れてしまったかのように。

「・・アユム。確かに、お前が近々亡くなるのは理解していた。」
彼は、もう、何も聞こえない相手に声をかけた。最後に、『けれど、信じられなかったんだ。』と付け足して。
今、何を言ったって彼の死を取り消すことができない。
そんなの解ってる。
幼馴染も、仲間も亡くなったのだから、解ってる。
頭では理解していても、体が追いつかない。


自らの手を伸ばし、相手の髪に触れようとした。










―ドクン

”それ”は唐突に目覚める。










「・・・嫌、だ。」
か弱い叫びが漏れる。
逃れようも無い吐き気や頭痛が一気に襲う。
伸ばした腕は、力なく落ちる。







―ドクン











時が近づく。
呪いがこの体を、この理性を壊していく。
全ての自分と言う存在が、亡くなっていく。

彼、との、思い出、も、





「ア・・・ユ、ム・・。」

手を伸ばせば眠っている彼がいる。
けれど、手を伸ばし彼に触れることも出来ない。
身動き一つ取れない。まるで、体に錘がついているように。

息が、出来ない。



「・・ア・・ユ・・・」








「・・・・排除、開始。」
そう言って、彼は踵を返す。
先ほどまでの彼の動きではなく、獣じみた動作。
目には光もなく、機械じみたもので、感情など一切なかった。
呪いが、目覚めた。








変われる運命なんて、無くて。
解っていても、「自分なら」「あの人なら」と希望を持ってしまう。
それが、人間なのだから。

これは、
とても悲しい人たちの物語。






運命に逆らう術
そんなものは、どこにも無い。